朝礼訓辞

令和4年5月 朝礼訓辞

 田村泰次郎という作家がいました。三重県の出身で生きておられれば、110才位かと思いますが、太平洋戦争では、中国に従軍されました。

 戦争を通して、いろんな経験をされ、戦後間もない日本で、肉体の解放こそ人間の解放であるとする所謂、肉体文字の時代の寵児になりました。沢山の本を書いておられますが、田村さんの作品の中で最も有名なのが「肉体の門」という本です。

 私は読んだことはありませんが、戦後の日本人の性のあり方を示唆され、従来の日本の封建社会のあり方から方向転換すべきだということを主張されたかったのではないかと私は想像します。

 この田村さんが、フランスに旅行された時の話が残されています。パリで交通事故に会い、一寸した怪我をされ入院したことがありました。その車を運転していたのは、優雅なフランスのマダムだったそうです。

 見舞いに花束を持って来て呉れたので、田村さんは感激され、お互いに相手を気づかって、友好的に話をしたのですが、別れぎわに田村さんが「いや私の不注意でした。ご迷惑をおかけしてすみません」と社交的な日本的なマナーとして当然だったのでしょう。


 ところがその後、相手のフランス人から、かなりの賠償金の請求が来ました。そこには田村さんが自分の不注意を認め責任は自分の側にあると言明したと書かれていたのでした。弁護士をたて話し合いになりましたが、相手側は田村さんが自ら自分の非を認める発言をした、と主張します。

 「私の方が不注意をした。ご迷惑をおかけしてすみません」と言ったではないか、というのが相手側の言い分でした。「あなたは確かにそう言いましたね」という弁護士の詰問に「いや、そんなことは言っていません」とは言えないのが日本人です。


 それは一種の社交儀礼であり、挨拶のようなものです。しかし外国では謝ったということは、自分の非を認めたことになる場合があります。


 国際社会はきびしいものです。「外国人に気やすく、謝っちゃ駄目だぞ」と田村さんは言っておられたそうです。レストランなどでウエイトレスを呼ぶ際にも「スミマセン」と声をかける日本人としては、どうも困った話のようではあります。


 地球上では100年に1度は戦争が起り、疫病が流行するという歴史があると云われます。「歴史は繰り返す」と云ったのはドイツの哲学者カール・マルクスです。
「正しい戦争なんてあるもんか」という言葉がSNSに投稿され反響を呼んでいます。


 コロナにウクライナと心配ですが、私達は自分に与えられた目の前の仕事に取組んで参りましょう。今月も何卒よろしくお願い致します。


致知5月号より参照
令和 4年 5月 11日(水)

医療法人純青会 せいざん病院
理事長  田上 容正

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