朝礼訓辞

令和4年2月 朝礼訓辞

 去る1月27日夜、埼玉県ふじみ野市の住宅で医師の鈴木純一さん(44歳)が、66歳になる渡邊宏という男に散弾銃で胸を撃たれ亡くなりました。
鈴木先生は犯人の母親(92歳)の訪問診療をしておられましたが母親に対する介護の対応に不満を抱いていたようです。


 例えば、在宅で胃瘻が何故できないのかなど、他にも不満を漏らしていたそうです。犯人の母親は前日に病死した模様で翌日になり、 クリニック関係者7人が弔問に渡邊容疑者宅を訪れました。犯人はまず、鈴木先生を撃った後、男性の理学療法士(41歳)を撃ち、もう1人には催涙スプレーをかけました。


 似たようなケースでアフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師のケースがありました。不条理極まりない事件ですが、人を助けようとする医師を無残に殺害するなど、言葉にもなりませんが、皆さんはこの犯人を中村先生を銃で撃って殺した犯人を、赦せますか。


 法律上は勿論のこと、人道的にも決して赦されない、と私は思います。
私はこの事件の記事を読み、深い悲しみにつつまれ人を赦すということの意味を今、真剣に考えています。


 話は変わりますが、岡山にノートルダム清心学園という女子大学があります。そこの、学長をしておられた渡辺和子という先生、もう6年前に亡くなられましたが、「置かれた場所で咲きなさい」という本を出版され、その本はベストセラーになり、その他にも沢山の著書が残されています。

 この渡辺先生のお父さんは、太平洋戦争の頃、陸軍の軍人さんでしたが戦争に反対の態度を取っておられました。ある日、急進的な過激な戦争推進派の軍人たちに襲撃され亡くなられました。


 これが、有名な2・26事件で1936年(私が1歳の時)のことでした。渡辺和子先生は当時9歳だったそうですが物陰に隠れていて自分は銃撃は受けませんでしたが、物陰からじっとこの模様を見ておられました。
この目撃体験は余りにも強い衝撃で、戦後は修道女となり大学教授として、次世代の子女の教育にあたっておられました。先生の人生のテーマは「赦す」ということであり、人生の柱となっていました。


 88歳になられた時は、ある作家との対談が雑誌に掲載されていました。「私は2・26事件の背景にいた人は赦すの対象外です。」と話されていました。つまり、父を銃殺した人は赦すが、その背後にあって命令した人は赦さない、と言っておられると私は思います。

 この2・26事件の背後にあった真崎勘三郎という軍人は戦犯として咎められることもなく、戦後も生き延びられたようですが、いつかまた機会を見て調べてみようと思います。


 今回の鈴木医師殺害事件、2・26事件、中村哲先生の銃殺事件、いろいろ考える度に無性に腹が立ち人生というものは何時どのような事が起きるかも知れない、そのような時私は、人を赦すということが出来るだろうか、と自問自答しています。


 置かれた場所で咲きなさい」と渡辺和子先生は言われましたが、私達は、私達の周囲の病める人や、貧しい人たちに出来る限り優しくしてあげ、自分の与えられた仕事に励みましょう。


 今月もよろしくお願い致します。



文芸春秋 2022年1月号
南日本新聞2022年1月29日版より
令和 4年 2月 2日(水)

医療法人純青会 せいざん病院
理事長  田上 容正

トップへ戻る
スタッフ
アクセス
新着情報
ギャラリー