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作家の五木寛之が、最近「忘れ得ぬ人、忘れ得ぬ言葉」というエッセイを書いています。
彼の忘れ得ぬ人とは、女優の大原麗子さんです。本当にいい女優さんだったようです。小柄で声も小さく、決して華やかではありませんでした。それでいて不思議な存在感を漂わせていたようです。
ある雑誌社で、彼女との対談が企画されたことがありました。
彼はまだ新人作家だったので、早目に会場に行き待っていましたが、一向に彼女が現れません。生意気盛りだった彼は、腹を立てて帰ろうとしたところにのこのこやって来ました。30分遅れていたそうです。
当然、恐縮して謝るかと思ったが、一向に謝る気配はありません。そして、いきなり言った言葉が「やっぱり体温が伝わって来るっていいね」でした。
何だそれは、と坐り直して話を聞いて見ると、新宿で唐十郎の歌舞伎を観て来たところだったそうです。
「もう超満員で坐るところがないの。仕方がないから若い大学生の膝の上に乗っかかって観たの」
お尻の下からじわっと体温が伝わって来て興奮しちゃった。やっぱり体温が伝わって来るっていいね」と云いました。
今のコロナの時代に、ソーシャルディスタンスが強調されると、五木寛之はかつての大原麗子の言葉を思い出すのだそうです。
彼の青春時代は熱い時代でした。人々は見知らぬ人と腕を組み、デモに行き、シュプレヒコールを繰返していました。
「三密を避けよ」と云われる今と違い、人々は互いに接触し、肉体をぶっつけ合い、口から泡を飛ばして議論しました。
仲間同志が体をぶっつけ合い、殴り合い、批判し合う時代でした。
「本を捨てて、町へ出よ」が合言葉でした。不要不急の人々が町を彷徨したのです。
大原麗子はそんな時代に生きた女優でした。その後、何年かして再びあった時は、精神がややバランスを欠いている様子でした。
彼女は、死ぬときはきっと一人で死ぬのではないかと五木寛之は思ったそうです。彼女はいつも人の肌の温かさを求めていた女性だったような気がすると述懐しています。
今、私達は距離をおいて人と接することを強制される時代に生きています。
鹿児島でも大量のコロナの発生があり、天文館のあるショーパブでクラスターが見つかっています。
種子島の人が数人行っていたという噂があります。いつ入って来るか解りません。充分に注意しましょう。
皆さん、朝夕の手洗い、うがい、マスク装着などに十分に気を付けましょう。
今日から医療センターでPCR検査が出来るようになりました。1日10名だそうです。
熊本を始め、日本中で豪雨の被害が出ています。台風もそろそろやって参ります。災害の備えも十分致しましょう。
今月も毎日の仕事に、生活に、励んで参りましょう。
今月も何卒よろしくお願い申し上げます。
「致知6月号」より
医療法人純青会 せいざん病院
理事長 田上 容正