朝礼訓辞

令和2年5月 朝礼訓辞

 ロシアの文豪トルストイに「イワンの馬鹿」という寓話があります。
昔、ある村に金持ちの農夫がいました。この農夫には長男で兵隊のシモン、次男で肥満のタラス、三男は馬鹿のイワンといわれた3人の息子と、聾啞者のマルタという娘がいました。
 兵隊のシモンは高い位に上り、多くの領地を得て王室のお姫様を嫁にもらいました。しかし、この嫁は金遣いが荒く、シモンはいつもお金に不自由していました。
 タラスは金を儲けてある商人の家に婿入りしましたが、それでもなお、お金が欲しいと思って生活していました。
 働き者で背中が曲がるほど農作業に精を出すイワンやマルタとはまるで正反対でした。
しばらくすると、金がない長男のシモンと次男のタラスは、それぞれに年老いた父親の所に行って財産を分けてほしいと無心します。父親は「お前たちは家のためになることは何もしたことはない。この家にあるものは、イワンとマルタが稼ぎ上げたものだ」と頼みを断りました。
 しかし、父親からその話を聞いたイワンは、自分たちがせっかく稼いだ財産を気持ちよく分け与えてしまうのです。

 父親から財産をもらったシモンとタラスは、ほくほく顔で家に帰り、イワンの家に残ったのは一匹のよぼよぼの牝馬だけでした。それでもイワンは何事もなかったかのように、その後も農夫をしながら両親を養っていきます。

 この3人の様子を見ていた悪魔は腹を立て、3人が憎しみ会うように策を講じます。向う見ずのシモンには、他国の領土に攻め入るようそそのかし、シモンは大敗に這々(ほうほう)の体(てい)で逃げ帰ります。欲深いタラスには、物を次々に買い込むように働きかけ、タラスを無一文にしたばかりか、大借金を負わせます。イワンには腹痛を起こさせ、農作業ができないよう農地を石で固めてしまうのですが、イワンは腹が痛くてウンウン唸りながら、それでも仕事を止めません。石を取りのけ、鍬を持って来て農地を耕し、農作物を作りました。

 人間の欲には際限がありません。ここに登場する悪魔は人間の心に潜む様々な邪念と捉えられます。過分な欲望はどこまでも大きく膨らんで、ついには自分自身を蝕み、最後には滅ぼしてしまう力を持っているのです。

 一方のイワンはどうでしょうか。欲に満ち溢れた社会にあっても、周囲の環境に全く左右されず、欲に一切頓着することなく黙々と畑を耕し続けました。
 では、イワンは不幸せだったかと云えば、不幸せどころか、心はいつも明るく幸せで満ち溢れていました。

 新型コロナは、日本ではよい方向に向かっているようですが、世界ではまだまだ油断を許せません。心をひきしめ、マスク、手洗いうがいなどの基本的な予防を怠ってはなりません。
 奄美、沖縄が梅雨に入りました。台風1号が発生して日本に近づきそうです。これでもかこれでもか、と災害が襲って参りますが、私達はただ、ひたすら、患者さんの為に、家族の為に働かなければならないと思います。

 今月も何卒よろしくお願いします。一緒に頑張りましょう。

 

致知4月号より参照

医療法人純青会 せいざん病院
理事長  田上 容正

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