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ロシアの作家ドフトエフスキーの小説に「カラマゾフの兄弟」というのがありますが、
その中に「一本の葱(ねぎ)」という話が出て来ます。
昔々、ある所に意地の悪いお婆さんがいましたが、そのお婆さんが死んだ時、あとに何一つ
良い行いが残っていなかったので、悪魔が火の湖の中へお婆さんを投げ込んでしまいました。
ところが、天使が現れ神様にあのお婆さんはずっと昔のこと、畑から葱を抜いて来て、
乞食の女の人にやったことがあったのですよ、と申し立てをしました。
すると神様は、ではその葱を取ってきて、火の湖の中にいるお婆さんの方に差し伸ばして、
それにつかまらせて、たぐりなさいと天使に云いました。もし首尾よく湖の外へ引き出せたら、
お婆さんを天国にやってもよい。また、もし葱がちぎれたら、お婆さんは今の場所にそのまま
置かれるぞ、と云いました。
天使は一本の葱を差し伸べました。そっと気を付けて、葱を引き始めました。
もう大分引き上げられようとした時、湖の中にいた悪人たちが自分たちも一緒に出して貰おうと
して、葱につかまりました。もともと、意地悪なお婆さんでしたので、足で蹴たくって突き
落としました、と思うが早いか、葱はぷっつりと切れてお婆さんはまた火の湖の中にぶくぶくと
落ちてしまいました。
この話はどんな罪人でも、慈悲の心があること、それによって人間が神仏に救われ得ること、
しかしまた、自分1人だけがよい目に会おうとするエゴイズムが結局、他の人々にも救われない
ものにすると共に、自分を破滅させるのだということを教えて呉れるのです。
人にはやさしくしてあげましょう。困った人を助けてあげましょう。心を病む人に親切にして
あげましょう。言葉を掛けましょう。
これに似た芥川龍之介の小説に「蜘蛛の糸」というのがあります。芥川は、カラマゾフの
兄弟を読んでそれをもとに書いたのではないかとも云われています。また、来月お話しさせて
いただきたいと思います。
今月も体に気を付けて、一緒に働きましょう。
医療法人純青会 せいざん病院
理事長 田上 容正